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写真家に聞くSILKYPIXの魅力:第3回 豊田 直之さん:冒険写真家
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豊田直之さん:冒険写真家

豊田 直之(とよだ なおゆき)さん:冒険写真家


水中撮影を必殺技とする冒険写真家。
1959年横浜市生まれ。東京水産大学(現・東京海洋大学)水産学部卒。サラリーマン、漁師、ダイビングインストラクターを経て、写真家・中村征夫氏に師事。1991年に独立し、海の撮影プロダクション・ティエムオフィスを設立。同代表。海の水中撮影をメインに、山に登り、川や滝を潜って撮影する。水中デジタルスチル撮影の第一人者。写真家集団「デジ侍」の理事長としてメンバーを率い活動する。かまくらペンクラブ会員。著書も多数。


■HP「ティエムオフィス」→ http://toyo-da.web.infoseek.co.jp/

■オフィシャルブログ「海宇宙」 → http://ameblo.jp/toyo-da/

はじめに

「写真家に聞くSILKYPIXの魅力」第3回目のお客様は、冒険写真家 豊田 直之 さんです。
ある時は魚網に捕らわれたトビウオが網の中で躍動する写真を水中からの撮影に臨み、またある時はうねり渦巻く滝つぼへ潜水し「落ち込み」の激しい水流の撮影を敢行し、常人にはなかなか目にすることの出来ない世界の写真を見せてくれる写真家 豊田さんを迎え、水中写真のお話を中心に色々聞いてみました。話は豊田さんがイセエビ漁師をされていた頃から始まります。
豊田さん作品:1 豊田さん作品:2 豊田さん作品:3 豊田さん作品:4 豊田さん作品:5

豊田 直之さん(以下、豊田と表記)
船舶用電子機器メーカーの会社にちょうど4年勤めたんだけど、サラリーマンに限界を感じて辞めた。次に何をしたかというと、伊豆七島のK島へ渡って漁師をやった。

― 島に渡って漁師、ですか?

豊田イセエビ漁師。素潜りで網を仕掛けるの。3年半くらいやってたのかな。またこれも話すと長くなるんだけど。で、夏場はダイビングのインストラクターとガイドの仕事を漁師と兼業していて、冬場は海が荒れるから船大工をやったりもしていてね。そろそろこの辺から写真の話になってくるから(笑)。

― 了解です(笑)。

写真を始めたきっかけ

撮影風景:その1

豊田K島でダイビングの仕事をしていた時に色んな海の中のシーンを見てきて、陸に上がってから色んな人に話すじゃないですか?「今日こんなすごいの見てきたよ!」って。でも話すだけだと今ひとつ伝わらなくて、相手が「だからどうなの?」って感じだったりと。きっとこれは「俺が見た景色はこれなんだ!」って形を見せないとダメなんだと感じてね。それからカメラ持つようになってね。それでその時はまだフィルムカメラだったんだけど、水中専用のカメラ(ニコノス4型)をたまたま譲り受けて、一所懸命に撮るようになるんだけど、なかなか人に見せられるような写真って撮れないのよ。「なんで写真って難しいんだろう?」って思っていた頃に、そろそろK島から故郷(横浜)へ戻らなければならない風向きになってきて、で戻ったんだけど、「じゃ次何すっか?」と思った時に、雑誌のライターになろうと考えた。大学時代からずっと、釣りの雑誌に原稿書いていたからね、

― そうだったんですか?

豊田 うん。で、釣りの派遣ライターをやろうと。兼編集者みたいな感じでね。それで色々な場所に釣りの取材で行くようになってカメラマンと同行するんだけど、編集兼ライターとしてここではこんな写真が欲しいというイメージを同行したカメラマンに伝えるんだけど、カメラマンのそのイメージに対する解釈が僕のイメージとは違って、上がってくる写真がうまく自分の原稿と合わない。それならば自分で撮るしか方法はないのかなと思って、初めて一眼レフのフィルムカメラ(CANON EOS620)を買ったの。それからパチパチ撮るようになってね。

― なるほど。

豊田でもなかなか思うようにはいかなくてさ…、ただ写ってるってだけの写真にしかならなくて…、「これ、どうやったら上手くいくのかな?」って思っていた。ちょうどその時ダイビング雑誌の編集兼ライターの仕事も始めだした時で、釣りの雑誌とかけもちしていたのね。とにかく現場にはカメラを持って行くようにして、記録写真を撮るようにしていたんだけどなかなか上手く撮れなかった。ある時、釣り雑誌の編集者と一緒に西麻布の居酒屋に行った時、偶然そこに水中写真家の中村征夫さんがカウンターに居たの。これはすばらしいチャンスだと思って、いろいろとお話をさせてもらった。僕は今こういう仕事をやっていて、写真をうまく撮れるようになって、写真家としてやっていきたい。一生懸命撮っているんですけど、ただ写っているだけの写真にしかならず非常に情けないと。「これって現在の仕事を続けながら写真の専門学校にでも通わなくてはダメですかね?」って話をしたら、中村さんが、「ちょうどいまうちでアシスタントを募集しようと思っていたところだから、もし良かったらうちで勉強しながらやってみるか?」って言ってくださってね。それがきっかけで中村さんのアシスタントを勤めることになった。

水中写真においてのRAW撮影メリット

撮影風景:その2

豊田 それで中村さんのアシスタントとして、2年半お世話になりました。色々な経験を積ませてもらうことが出来ました。もっと長く勤めようと思えば勤められたんだけど、ずっとアシスタントをしていると独立するタイミングを逸しちゃうし、なんかイカンなっていう事でね、で相談させてもらって独立をさせて貰ったんだけど。それが平成3年の6月、もう来年が独立して20周年だね。

― その後デジタルカメラを水中に導入し始めた当初は、JPEGでの撮影ですか?

豊田最初はそうだったね。RAWに切り替えたのはD60(CANON EOS D60)からだったかな。まだ当時はRAWってものがどんなものかってのも、とてもあやふやで、RAWの現像ソフトっていうのも、別にこんなんだったらRAWで撮る必要ないじゃんって位の性能だったし…。

― まだRAWならではの、効果的な調整を行う事が出来なかったのですね。



豊田そう。RAWで撮るメリットはなんなの?って感じで、D30(CANON EOS D30)の時は、RAW撮影は全然頭になくてJPEGで撮っていた。結局そのJPEGで撮る事の難しさ、というかJPEGで撮った後の作品は作品として広がらずに修正ばかりを行なう感じだった。例えばホワイトバランスがきっちり合わなければいけないよとか、微妙な色調が異なるとかね。で、結局画像レタッチソフトに頼ってこう強引な色補正というか、調整をせざるを得ないようなね、まだ当時は色も安定していなかったし…。

― なるほど。

豊田それでその後購入したD60を使い始めた時に、一回試しにRAWで撮ってデータ現像してみようと思ってね、その頃から現像ソフトも進化し始めたんだ。そうしたら、しょうもないような写真が突然変貌を遂げてね、「何これ?」って感じで。それまで画像処理ソフトを使って強引に色合わせすることによる画像の荒れっていうのかな、それがすごく気になっていたんでね、RAWから現像時に調整を行ってきちっと作品を作り上げていく方が、データの傷みもほとんどないことがわかったし…。

― 画像自体が持っている情報量が違いますからね。

豊田うん。「これこそデジタルで撮影するメリットじゃないの!」って思って、そこからRAWでの撮影と現像が始まっていった。1Ds (CANON EOS 1Ds)の頃には、もう完全にRAW撮影にシフトした感じかな。あとその、RAWの魅力って言うのかな、例えばこういう調子に上げたいっていう撮影者の意図が反映できるし、そこでの試行錯誤もできるしね…。

― そうですね。

豊田 例えば、それを出来上がってしまった画像からやろうとすると、まあ色んな複雑な調整処理をしなきゃいけないし、どんどん画像も劣化してしまうし。でもRAWだとそこから色んな表現が出来るじゃないですか。一回遊びでこんなの作ってみたいと思ってやってみたら、「これは面白い!」って事もあるし。

― ええ(笑)。

豊田 クリエイティブな心がどんどん芽生えてくるよね(笑)。

SILKYPIXを使い始めたきっかけ

豊田さん作品:2

豊田 SILKYPIXを使い始めたのは、2007年くらいだったかな。SILKYPIX Marine Photographyが発売されて間もない頃だったと思います。最初は、半信半疑で使ってみると、さすがに開発者がダイバーなだけあって、痒いところに手が届く機能があってね。それから色々試してみると、現像ソフトによっては、現像後に別の画像レタッチソフトで更に調整が必要になるケースがあったんだけど、SILKYPIXを使うようになってからはSILKYPIXだけで最後の仕上げまでいけちゃうって事に気がついてね。

― ありがとうございます。作品を完成まで持って行けるって事ですね。


豊田そう。だから僕の中では、勝負作品はもうSILKYPIXで行くっていう風に決めてて。で、調整をしてからそのままRAWデータからプリント出来るじゃない。だからもう全然段階を踏む必要がないんで。


― プリント制作が最終形態でしたら、TIFFやJPEGへの現像も必要が無いですよね。

SILKYPIXのお気に入り機能

― では、SILKYPIXの機能の中で、お気に入り機能をお願いします。

豊田さん作品:5

豊田まずはスポッティングツールでしょう。例えば、海水中にプランクトンやチリのようなものがわずかに写り込んでいて、それが作品全体に影響ある場合など、以前はRAW現像後に別のレタッチソフトで消してたんです。だけど、SILKYPIXではRAW現像時に処理出来る(注:PRO版のみ)から、本当の意味で仕上げまでばっちりいけちゃうし、もうSILKYPIXのみソフトを起動しておけば、他のソフトウェアを起動する必要も無いですし…。

― 作品制作をシンプルに行えるとも言えますね。

豊田そうだね。また、特に難しい撮影をしてきた時、例えばこの写真*5は鎌倉のお寺の道なんだけど、明暗差が無茶苦茶あって、それから感度がISO12800。このあたりをどういう風にうまく調整するか悩みどころなんだけど、SILKYPIXでの現像は楽勝でしたね。

― たしかにこの写真は、手前と奥の明暗差がかなり激しいですね。RAWデータを開いたままの状態ですと、奥の方の道が白トビしていますが、仕上げ後は階調が戻っていますね。

豊田うん。微妙なトーンがね。撮影時見てきた印象を再現するって上で、RAW現像はものすごく大事なところがあるしね、おおざっぱにやっちゃえばおおざっぱなりに出てきちゃうんだけど、細かいところにこだわっていくと、色んなところがこう操作出来るようになっているって言うのかなSILKYPIXは。

― ありがとうございます。

豊田他には、カラーのプリセットで選択するフィルムシュミレートモードが気に入ってます。これは“フィルム調V1”はどう?とか“フィルム調P”はどうかな?といった感じで、試すことが多いですね。言ってみると遊び心みたいなもんなんだけど、その中で自分の気に入ったテイストが出れば、「よし、ここでもらい!」みたいなのもあるしね。で、もしそこに無ければ自分で作って行くみたいなところがあります。面白いです、フィルムシュミレートモードは。

― なるほど。

豊田 それともうひとつ、この機能(豊田さんがSILKYPIXを操作)、ファインカラーコントローラー。この機能がね、すごくその直感的に色を調整する時の役にたつ機能で、各色相の真ん中のポイントを動かすことで、円上の内外側に動かすと彩度、円周上に動かすと色相の調整ができるっていうのを知ってさえいれば、ポイントをピュッって動かすだけで簡単に出来ちゃうでしょ、感覚的に。水の微妙な色の調整にも効果がありますね。 SILKYPIXはさ、手順とかよくわからなくても、なんとなくメインコントロールの上から順に調整すると仕上がっちゃうよね。

― そうですね。我々も上から順の調整を行うと良い結果が得られますと推奨しております!

豊田あと、トーンカーブも使うよね。部分的なコントラストをもう少し強調したいって時に、その部分にカーソルをあてるとトーンカーブの線上に表示されるからとてもわかりやすいね。
SILKYPIX全体の印象として、「僕はここが調整したいんだ!」って思った時に、ちゃんと動作してくれる、応えてくれるというのを強く感じます。さっき言った通り、上から順に調整してきて、必要に応じてファインカラーコントローラーやトーンカーブを使うってスタイルですね。

水中写真の紹介

― この写真の魚*4は、何ですか?

豊田 コケギンポの仲間だね。これは八丈島で撮影した写真。台風のうねりがまだ残っていた時でね。

― これは大きな魚ではないですよね?

豊田うん、大人の小指の先ぐらいの奴。穴から出たり入ったりしていて、出てきてカッって口を開けるのも一瞬。フォーカスは固定にしておいて、うねりで体が揺れる中、フレーミングを含めて全てのタイミングが合った時にシャッターを押す。

― マクロ撮影ですので、フォーカスにしてもフレーミングにしても繊細ですよね。それを陸上の手持ちでも難しいのに、水中で行うのは至難の業ですね。

豊田さん作品:4

豊田慣れと勘ですかね。この写真、現像調整前とガラッと変わってるでしょ?

― 変わってますねー。シャキっと、クッキリとした印象で。

豊田そもそもこの作品はアンダー気味。わざと現像が難しいデータを今回のために現像してみた。アンダー気味でめりはりがなくというのがRAWの段階だけど、ここまでしゃきっと仕上げられる。また、この作品には、白いプランクトンみたいなのが被写体の目の前に写っていたので、先ほど話したスポッティングツールで消しました。



― あー、これですね。

豊田うん、これこれ。小さい点でも、ここにこの白い小さな点があると、せっかくこいつ良い表情してるのに、作品見る側はそっちに目を引っ張られちゃう。

― たしかに気になりますね。もったいないです。

豊田RAWデータで消しておく事が出来るのはとても都合が良いです。

― 使用目的によって再現像が必要な場合は、RAWデータで消しておかなければ再度レタッチ作業が必要になって、非効率的ですよね。

豊田同じ写真を雑誌の見開きで使用する場合もあれば、ハガキの半分くらいのサイズで使う場合もある。そういう場合、フィルム写真の頃はとにかく大きなクオリティで撮影しておけば、小さいサイズで使用する場合でもまったく問題はなかった。でも、デジタルの場合って、例えば大きいサイズで現像しておけば、小さいサイズで使用する場合にリサイズを行うことになる。極端なリサイズは、データそのものを間引きして小さくしているから、データが大幅に劣化する。本当の意味からすると、それぞれ使用サイズに近いサイズに合わせて現像を行う必要がある。そういう意味で、RAWデータでの現像は、必要なサイズに指定していくらでも現像できるしね。

― そのような、別サイズで現像というケースは良くありますか?

豊田ありますね。使用サイズが大きい場合と小さい場合で、多少調整を変えて現像を行う場合もありますね。

― スポッティングツール、お役に立てて嬉しいです。次にこのウミガメの写真*3、かなり至近距離ですよね。

豊田うん近い近い、もう目の前。この写真は撮ったときの露出が若干オーバーだったんだよね。

― たしかにそうですね。

豊田これは、ここまでウミガメに寄れると思わなかったので、絞りとストロボの調整とかが若干追いつかなかった作例。それでもSILKIPIXで現像すれば、こんなにすばらしい作品に仕上げられるという点で、本来は現像が難しいものを選んできたんだ。

― 豊田さんは、ウミガメより深い位置にいるんですよね?

豊田さん作品:3

豊田そう、ほんのちょっとね。それがギューンと寄ってきちゃって、「おう!」って感じでシャッターを押して、こういう写真が残っているんだけど、ぶっとんでしまっているわけじゃないし、調整可能範囲内だなっていう自信もあったしね。一見白く飛んでるような箇所も実はデータが残ってて、調整によって色が甦ってきたね。

― 水面のディティールも甦がえりましたね。

豊田うん。それと、調整前と調整後で大きく変わっているのが、ウミガメの腹の暗部。トーンカーブを使ったんだけど、暗部が締まってるでしょ?

― たしかに。暗部が締まったことで奥行き感というか勢いを感じます。

豊田ストロボで起こしすぎてしまって、平面的になってしまっていたんだよね。それを暗部を落とすことによって、ウミガメの立体感をうまく調整できたと思います。

水中写真の心得

― 今までで、水中写真において一番大きな被写体っていうのは何ですか?

豊田クジラかなぁ。

― どれくらいの距離から撮影されたんですか?

豊田すぐそばでしたよ。母クジラと子クジラのペアの時は、母クジラが泳いできて、胸ビレがこの辺(真近)カスって行くの。「ここから先は近づいてはだめよ!」って警告しているような感じで。

― へー(驚)。豊田さんはあんまり恐怖心とかないんですか?

豊田いや、怖いですよ、いつも怖い。だから絶対に自分の中では無理をしない、それから無理に追わない、って言うのは常にどっかに持ってて、怖いと思ったらもう退散。

― ちなみに、危険な目に合った事もありますか?

豊田サメが興奮した時があったね。

― 興奮ですか!?

豊田興奮っていうのはいわゆるシャークアタックに近い状態。動画を撮影していた時なんだけど、もしかするとビデオライトが光ったのが原因かもしれない。あいつらエサのサカナがギラッと光ったと思ったのかもしれないね。いきなり突進してきた。すごい勢いだったから、自分の足がどこか無くなったかもしれないなって一瞬思ったくらいだから。

― へー(怖)。

豊田さん作品:1

豊田結構でかいサメには出くわしてるのよ、5メートルくらいのシュモクザメとか。

― シュモクザメって、ハンマーヘッドですか?

豊田そうそうハンマーヘッドシャーク。あのトンカチみたいな頭をしたやつ。ちょうど4~5メートルまで一直線に向かってきて、手前でほぼ180度グインと反転して戻っていった。

― おー、シュモクザメもたしか凶暴でしたよね。

豊田うん、人を襲うって言われてるね。さっき言ったシャークアタックの時は、もうサメが、カクカクカクッってすごい機敏になって向かってきてね。

― その時どうされたんですか?

豊田ビデオカメラを持ってたから、それで突き返してね。

― 反撃したんですか(驚)?

豊田うん。

― ありえないです(笑)。

豊田他にはそんな怖い思いをしたことはないかな。ボンベの残圧もいつもチェックしてるし、チェックが必要なものに関しては、しっかりチェックしているので。例えばもう、残り(空気)がちょっとしかないのに、すごい被写体と遭遇した場合なんかは、もう撮らないもん。無理して、よくこんなチャンスは2度とないからっていって、もう残りの空気も極めて少ない状態で追っかけて行っちゃうとね、それは無理なんだよ。僕の中で無理だと判断したら、もう本当に貴重なシーンで、これを撮ったらとんでもなくスゲーかもしれないなって事が目の前で起きたとしても、自分が安全に地上に戻れない、このままではヤバいなと判断したら撮らない。それは自分の中で必ず決めていて、どんな凄いものを撮ったとしても、ちゃんと地上に戻れないと意味がないと思っています。

― それは最も大事ですよね。

豊田それをついつい忘れちゃうんだよね。

― 目当ての被写体が、何日も粘った末に最後の最後で現れた時に、「撮りたい!」って思っても、撮ったらもう命の危険に晒される訳ですからね。

豊田それでね、別に宗教的な話じゃないんだけど、きっと神様が「こんなすげーシーンもあるから次も頑張れよ!」って言ってくれてるんだよなって、思うしかないの(笑)。

― 素晴らしいプラス思考です(笑)!

豊田そしたら、「よし、また次撮ってやるべ!」って気持ちになるでしょ。

― 実際あったんですね?

豊田よくありますね。色んな事がね(笑)。

SILKYPIXへの要望

― SILKYPIXへの機能的な要望はありますか?

豊田現状の機能で困るようなことはないし、充分満足していますので特にはないです。

― ありがとうございます。

読者の皆様へひとこと

豊田 直之さん:冒険写真家

― では、最後に読者の皆様へ一言お願いします。

豊田そうだね、例えば写真を仕事ではなく趣味と捉えた場合ね、自分が撮った写真を人に見せたいから撮るんじゃないかなと思うの。当然自分が満足したいからっていうのもあると思うんだけど。で、現在なかなかうまく撮れないって思っている方がいれば、自分が何に心を動かされたかっていう事を、シャッター切る直前に一瞬反芻する事、じっくり被写体を観察してね。

― はい。

豊田そういう事言うと、最初すごいまどろっこしい作業のように感じるかもしれないけど、この被写体は形が面白かったのか、表情がかわいかったのか、なにかが滑稽だったのか、色が綺麗だったのか、他の魅力があったのかね、その人の感性がまさにそこに集約されるような気がする。その時に、パッて撮るのではなくて、その集約されたものをどういう風に表現してあげれば、それがストレートに表れるかを見抜いてから撮って欲しい。最初はわずらわしい作業に感じるけど、何回かやってるうちに慣れてきて、どんどん慣れてくると「ここだ!」ってアングルにいきなり入れるようになるしね。そのトレーニングをすると、まず写真がガラッと変わる。それから、写真を見せた時の相手の印象がガラッと変わる。と同時に、RAWで撮って現像を自分の手で行う、最後の仕上げまでを自分の手で行うと、もう全てがそこで完結する。そういう意味で、RAW現像っていうのは単純に写真を仕上げるのではなくてね、撮るところから始まってると言えるんじゃないかな。

― 撮る時に、写真の仕上がりをイメージし、ちょっと違っている箇所を調整する事ですよね。

豊田そうそうそう。例えば細かいところにもこだわれば、このSILKYPIX全部応えてくれるから、きちんと、自分の撮影時に「オッ!」って感じたものは何かっていうのを、全てRAW現像に注ぎ込んでほしいのよ。そうすると作品としてのクオリティがぐいっと高い位置に上げることができると思います。

― 長い時間にわたり、貴重なお話をありがとうございました。

豊田ありがとうございました。




― 「魚は食べて楽しんで、釣って楽しんで、見て楽しんで、そして撮影して楽しんで。」との豊田さんのお言葉が、とても印象的でした。そんな“魚愛”溢れる豊田さんだからこそ、被写体を最高の写真表現で人に見せる為にRAW現像を選択されていることに、深いこだわりを感じました。

【 2010年10月12日公開 】


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